《スティーブ・ハケットが語る》: 3
ジェネシスのメンバーのなかではあなたが唯一、過去の名曲を現在もライブでプレイしている存在になっています。
「《月影の騎士》の完全演奏」はもうかれこれ150回ぐらいライブをやってるね。
たしか1973年のころだったか、ジョン・レノンが「ジェネシスのアルバムはよく聴いてる」と言ってくれたんだよ! すごく照れるけどすごく嬉しかった。
当時のジェネシスはいろいろ実験的なことをやっていたんだ。すごく長い曲を作ってみたり、インストのパートをたくさん挟んでみたり。MTVなんかなかった時代だからね。
そういう意味では「自分たちなりの”マッカーサー・パーク”」を作ってみようとしていたんだと思う。
当時のラジオ局は、そうした長尺のジェネシスの曲をオンエアしていたんですか?
全然!ちゃんとかけてくれてたのは大学のラジオ局だけだったね。一般のラジオでかけてくれてたのは”I Know What I Like”だけだよ。
《月影の騎士》からは他の曲のシングルカットもあったけど、そのシングルでさえ、すごく長い曲ばかりだったからね。
ジェネシスの曲というのは、僕が思うに 「耳で聴く映画」 なんだよ。
映画のなかにいくつものストーリーがあって、それぞれ別の時間軸で流れている、みたいな。
今の音楽にはそうした試みは完全になくなってしまったね。チャイコフスキーやムソルグスキーやマイルス・デイヴィスやジェネシスがやっていたようなものはね。
僕自身は、僕らが60年代にやっていたことに今でも関心を持ち続けているんだ。つまり、いろいろな音楽スタイルをミックスするとか、”いろいろなジャンルをあっちに行ったりこっちに行ったりする”というアプローチがね。
僕らが求めていたのは「サプライズ」なんだ。曲調が突然大胆に変わっていく”サプライズ”なんだよ。
そういう意味では現在の音楽には”サプライズ”は全然ないよね。
それはきっと、現代の曲はかならずクリックでスタートして、そのタイミングで最初から最後までずーっと一定だから。
パルスというのはカウントするためにあるものであって、その中で全体の曲の構造を作らなければならないと制約するためのものではないんだ。
「ジェネシスはもっとメロトロンみたいな楽器を使うべきだ」と最初に主張したのはあなただった、というのは本当ですか?
そうだよ。
メロトロンもそうだし、シンセサイザーもね。
メロトロンやシンセをどんどん導入すれば、もっとオーケストラや合唱団みたいなサウンドを増やすことができる、と考えていたから。
ロックン・ロールの限界をとことん広げることに夢中だったんだ。