《うらめしい絵》
日本美術のなかで、特に幽霊を描いた作品を紹介した本です。面白かったです。
「幽霊の絵」として最も有名なのが、この円山応挙の「返魂香」ですが、
当代随一の絵師である応挙を、ちょっとからかってやろうと考えたお金持ちのパトロンが、
「今まで誰も見たことのない”幽霊”を描かせてみよう。さすがの応挙も、見たことのないものは描けないだろう」
というシャレでオーダーしたらしい。
すると・・出来上がった作品は!
誰もみたことがない”幽霊”なのに、「これこそまさに幽霊だ!」と万人がうなずく作品を完成させてきたのです。
しかもこの作品を、ろうそく一本だけしかない薄暗い部屋に飾ってみれば、まさにこの女の霊が浮かび上がるように見えるのだ。
応挙は、「どんな環境でこの絵を見るのが一番恐ろしいか」ということまで計算し尽くして描いていたのだ。
さらに、リアリティを追求するために、この絵にだけは自分の落款も押さなかった。(そりゃそうだよね、落款を押してしまったら、”これは絵ですよ”とバラしてしまうことになるから)
さすが応挙です。
かくして、日本人の心の中では、「幽霊といえば応挙の絵」というスタンダードが完成されたわけだ。
また、この応挙の作品が示すとおり、日本の幽霊の絵は、恐怖や恨みを表すものではなく、むしろ、悲しみや寂しさや未練を表す記号になっている。
これも、この応挙の「返魂香」が”発明”した価値観なのでしょう。